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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)5417号 判決

二 右争いのない第一明細書及び第二明細書の各特許請求の範囲の記載によれば、第一発明及び第二発明の構成に欠くことができない事項として 以下のとおり、第一発明については(い)ないし(は)の事項が、第二発明については(A)ないし(G)の事項がそれぞれ記載されているものと認められる。

1 第一発明

(い) 被塗装物品から間隔を隔てた霧化装置から霧化された細かい荷電噴霧粒子を物品に付着せしめることによつて物品を静電的に噴霧塗装する装置であること

(ろ) 上記の霧化装置は、液体の流れを実質的に均一の厚さの長く延びた端縁部をもつ薄く延びたフイルムにするための長く延びた放出縁を備えていること

(は) 霧化噴霧粒子を荷電し物品上に付着させるために、上記の液体フイルムの長く延びた端縁部と被塗装物品の間に、高電位の静電界を維持する高電圧源装置を備えていること

2 第二発明

(A) 被塗装物品から間隔を隔てた霧化装置から霧化された細かい荷電噴霧粒子を物品に付着させることにより物品を静電的に噴霧塗装する装置であること

(B) 霧化装置が中心軸の周りに同心に形成されていること

(C) 霧化装置が中央の室をもつていること

(D) この中央の室から霧化装置の外周に沿つて霧化装置の軸と同心の円をなして位置する多数の点に液体塗料を導く装置を備えていること

(E) 高圧電源と霧化装置外周の液体塗料との間に電圧線装置があること

(F) 静電界の作用の下に液体粒子の中空環状の噴霧を形成すること

(G) 形成された噴霧を霧化装置の軸と大体平行の通路に沿つて物品に向け動かしめるごとくしたこと

三 前記認定の各発明の構成に欠くことができない事項として各特許請求の範囲に記載された事項のうち、第一発明の(ろ)の事項及び第二発明の(D)の事項が、どのような技術的事項を内容として規定したものであるかをまず検討する。

1 第一発明の(ろ)の事項について

(一) 成立に争いのない甲第一号証によると、第一明細書の発明の詳細なる説明の項に次の記載があることが認められる。

(1) 「本出願人の特許第二二七六三四号(特公昭三〇―八二八五号)には、霧化は静電的になされ、塗料は物品から間隔を隔て電極を構成する噴霧頭に供給されこの電極と物品との間に静電界が維持される静電塗装方法及び装置が示されている。」((一)1頁左四一―右三)「この静電塗装方法及び装置に於いては、噴霧頭は塗料が噴霧頭の表面上で多少不連続的の小滴の列を形成しこれから静電的霧化が行われる様に構成されていた。静電界で霧化された塗料を均一に分散するには、この小滴を均一の間隔にして塗料を此等に実質的に均一の割合で供給する事が必要である。しかし物品の表面に塗料を所望の均一さで分配する為に充分に均一な割合で小滴の列に塗料を供給することは困難な事が分つた。本発明の目的は、被覆されるべき物品の上に静電的に附着する様に噴霧頭から霧化される塗料の分布の均一性を改良することである。本発明の付加的な目的は、均一な塗装を生成し、霧化された塗料の制御を改良し、内側の凹んだ面の改良された塗装を得せしめる事である。」((一)1頁右八―二二)

(2) 「本発明は……液体塗料を制御された速度で給送して霧化圏域で薄いフイルムを形成し、実質的に均一の厚さをなすこの薄いフイルムの縁から霧化し液状にある間に静電界の作用で物品上に附着せしめる静電塗装装置に関するものである。」((一)1頁右二八―三五)

(3) 「本発明の好個の実施態様に於いては、噴霧頭には長く延びた放出縁成るべくは鋭がつたナイフ状断面をもつ放出縁を設け、この端縁部への塗料の供給を維持し先端に集中された静電界の作用で霧化せしめる装置を設ける。……塗料供給装置は縁部に沿つて延びる実質的に均一の厚さの連続的フイルムを生成し保持する様に構成される。

フイルムを必要とする場所では、供給装置は直接にフイルムを形成しても或いは1個又はそれ以上のオリフイスを設けてこれを通して液体を支持表面に排出しここで拡がつてフイルムを形成する様にしてもよい。」((一)1頁右三六―2頁左七)

(4) 「上記の霧化機構はすべて液体物質の流れをフイルムの形状において放出縁に供することがわかるであろう。

このフイルムの形状は放出縁の形状によるもので……環状とすることも、……弓状にすることも、その他所望の形状にすることもできる。」((一)3頁左四三―右二)

(5) 「放出縁12への液体物質の分布の均一さは、概ね通路31を劃定する二部分の同心状態によつて定まり、而してそのために各部を機械加工によつて適切な同心状態を得るために精密に仕上げることが望ましい。」((一)2頁右一七―二二)

(6) 実施例として示されている放出縁の形状が環状である塗装装置に関し、容器と制御体により形成される通路の幅が〇・〇〇五〇八センチメートル(〇・〇〇二インチ)ないし〇・〇一二七センチメートル(〇・〇〇五インチ)である場合が、他の設計条件とあいまつて良好な塗装結果を得られる旨記載されている((一)3頁右一七―三八)。

(二) 右記載からすると、第一発明の主目的は、噴霧頭から霧化される塗料の分布の均一性を改良する点にあること、この目的を達成するための霧化機構は、フイルムの端縁から液体塗料を霧化放出するための「長く延びた放出縁」と右放出縁に薄く延びたフイルムを提供する「塗料供給装置」とからなるものであること、第一発明の主目的である霧化される液体塗料の分布の均一性を保持することは、放出縁によつてではなく、液体塗料を放出縁に供給する塗料供給装置によつて達成されるものであること、液体塗料の流れが薄く延びたフイルム状となるのは、放出縁の形状によつてではなく、実施例に則していえば、塗料供給装置である通路、すなわちスリツトの幅が微小に形成されていることによるものであること、フイルムの形状は放出縁の形状によつて定まるものであること、が認められる。

(三) 右認定の事実からすると、第一発明の(ろ)の「液体の流れを実質的に均一の厚さの長く延びた端縁部をもつ薄く延びたフイルムにするための長く延びた放出縁を備えていること」との文言は、「液体の流れを実質的に均一の厚さの長く延びた端縁部をもつ薄く延びたフイルムにする」という機能を有する「長く延びた放出縁」を備えていると読むべきではなく、「長く延びた放出縁」と右放出縁へ液体塗料を薄く延びたフイルムとして提供する塗料供給装置」との関係を機能的表現をもつて記載したものと読むべきであつて、フイルムの形状を長く延びた端縁をもつものとし、その端縁から液体塗料を霧化放出するための「長く延びた放出縁」と右放出縁に薄く延びた液体塗料のフイルムを提供する「塗料供給装置」が、いずれも第一発明の構成に欠くことができない事項として記載されているものと解すべきである。

2 第二発明の(D)について

(一) 前掲甲第一号証及び成立に争いのない甲第三号証によると、次の事実が認められる。

(1) 第二明細書の発明の詳細なる説明のうち、塗料供給装置及び霧化機構に関する記載部分並びに実施例に関する図面は第一明細書の発明の詳細なる説明のそれらと同一であること

(2) 実施例に関する説明中には「第6図(イ)に示すごとく、液体塗料は放出縁12の内側に沿つて実質的に均一な厚さの環状に長く延びた端縁部をもつ薄いフイルム31´を形成し、このフイルム31´の端縁から図示のごとく霧化される」((二)2頁右二八―三二)との記載があり、右第6図(イ)においては、フイルムの端縁の全面からではなく、右端縁上のほぼ等間隔を置いた点から放射状に液体塗料が霧化している状態が図示されていること

(3) 第二特許は第一特許からの分割出願にかかる特許であり(この点は、当事者間に争いがない。)、第二明細書の発明の詳細なる説明中にも「本発明は上記の霧化装置」すなわち第一発明の霧化装置を「中心軸の周りに同心に形成し、かつ中央の室を設け、この中央室から霧化装置の外周に沿つて霧化装置の軸と同心の円をなして位置する多数の点まで液体塗料を導くようにしたことを要旨とするものである。」((二)4頁左八―一二)との記載が存すること

(二) 右事実からすると、第二発明の(D)にいう「中央の室から霧化装置の外周に沿つて霧化装置の軸と同心の円をなして位置する多数の点に液体塗料を導く装置」とは、結局、霧化装置の外周すなわち円環状の放出縁上に液体塗料を供給する塗料供給装置を意味し、右装置を抽象的、機能的表現でもつて記載したものと認められる。

四 三で認定したとおり、第一発明の(ろ)及び第二発明の(D)は、「塗料供給装置を備えていること」がそれぞれ第一発明及び第二発明にとつて不可欠な構成であることを明らかにしていると認められるわけであるが、いずれにおいても「塗料供給装置」についての記載が抽象的、機能的になされているために、それが具体的にいかなる装置を指称するものかが明らかでない。

そこで、以下第一、第二明細書の各発明の詳細なる説明の項の記載や図面を参酌して、第一、第二明細書においては、いかなる「塗料供給装置」が開示されているか検討することとする。

1(一) 前掲甲第一号証によれば、第一明細書の発明の詳細なる説明の項には、塗料供給装置に関して前記三1(一)の(1)ないし(6)の記載があるほか、容器の下部尖端に形成せられたナイフ状の端縁部を有する環状放出縁へ液体塗料を薄いフイルムにして供給する装置として、容器の内壁と容器と同一軸線に保持された制御体の下端によつて画定される通路、すなわちスリツトが具体的な実施例として掲げられ、かつオリフイスを用いる方法が抽象的に記載されていることが認められるものの、霧化機構の高速回転による遠心力の作用によつて液体塗料をフイルムに成形して放出縁へ供給するというような装置に関する具体的な記載はもちろん、これを直接示唆するような記載は存しないことが認められる。

(二) また、前掲甲第三号証によると、第二明細書の発明の詳細なる説明の項には、塗料供給装置に関して前記三2(一)の(1)ないし(3)で認定したとおり第一明細書と同趣旨の記載があるほか、実施例に関する図面も第7図を除いて第一明細書の図面と同一であり、放出縁へ液体塗料を薄いフイルムにして供給する装置として具体的にはスリツトが、抽象的にはオリフイスが記載されていることが認められるものの、霧化機構の高速回転による遠心力の作用によつて液体塗料をフイルムに成形して放出縁へ供給するというような装置に関する具体的な記載はもちろん、これを直接示唆するような記載は存しないことが認められる。

2 ところで、前掲甲第一、第三号証によると、第一明細書の発明の詳細なる説明の項には「本発明者は本発明と同時に特許第二五二四五九号(特公昭三二―九七八四号)に示す静電塗装方法を発明したが、本発明はこの特公昭三二―九七八四号の静電塗装方法を実施する静電塗装装置を提供するものである。」((一)1頁右二三―二七)と、第二明細書の発明の詳細なる説明の項には「本発明はこの特願昭三〇―三〇九五号(特公昭三二―九七八四号)の発明による方法を実施するための装置の発明である。」((二)3頁右四四―四五)とそれぞれ記載されており、また、いずれの明細書の発明の詳細なる説明の項にも「図面は本発明を実施する適当な装置を示す。しかしこの図面に示す装置はその一例を示すに止まるにすぎず、本発明は他の多くの態様で実施し得るものでこの図示例に限定されるべきでない。」((一)2頁左八―一二、(二)2頁左一四―一七)との記載が存することが認められるので、A特許の明細書において、「塗料供給装置」に関し、いかなる技術が開示されているかを検討する必要がある。

(一) 成立に争いのない乙第一号証によると、A特許の明細書の特許請求の範囲の記載は、

「液体被覆材料を制御された速度で噴霧頭に供給し、液体被覆材料の流れを実質的に均一の薄く拡がつたフイルムに機械的に変形し、該フイルムの縁から液体被覆材料の細分粒子を静電的に霧化し霧化された液体被覆材料粒子を液状の中に静電界の作用により物品上に沈着せしめて被覆を形成することを特徴とする液体被覆材料で物品を静電的に被覆する方法。」というものであり、かつA特許の明細書の発明の詳細なる説明の項には塗料供給装置に関する次のような記載があることが認められる。

(1) 「本発明による方法は、液体被覆材料を制御された速度で噴霧頭に供給し、液体被覆材料の流れを実質的に均一の薄く拡がつたフイルムえ機械的に変形し、該フイルムの縁から液体被覆材料の細分粒子を静電的に霧化し、霧化された液体被覆材料粒子を液状の中に静電界の作用により物品上に沈着せしめて被覆を形成することを特徴とする液体被覆材料で物品を静電的に被覆する方法である。」(同号証第2頁左欄五行ないし一三行、以下、欄、行の表示は略し、例えば、2頁左五―一三と表示する。)

(2) 「本発明の好個の実施態様に於ては、噴霧頭には長く延びた放射端成るべくは鋭がつた即ちナイフ状断面をもつ放射端を設け、この端部への被覆材料の供給を維持し先端に集中された静電界の作用で霧化せしめる装置が設けられる。長く延びた端部は如何なる形状でもよいが、一般的使用に最も有効な形状は連続的の環状のものであろう。被覆材料供給装置は縁部に沿つて延びる実質的に均一の厚さの連続的フイルムを生成し保持する様に構成される。フイルムを必要とする場所には、供給装置は直接にフイルムを形成しても或は1個又はそれ以上のオリフイスを設けてこれを通して液体を支持表面に排出しこゝで拡がつてフイルムを形成する様にしてもよい。後者の場合には、排出縁に沿つて被覆材料の分布を一様に推進せしめる為に縁部とオリフイスの間に、縁部が延びる方向と同方向の相対的運動を生ぜしめるのが有利である。」(同号証2頁左一四―三一)

(3) 第1図の装置に関する説明として「制御体26は溝28内に挿入し得るスパナその他の器具により杆27上を廻転自在に調節せられる。制御体26が所望の位置に整定されたとき杆27上のロツクナツト29により制御体をその位置に固定する。制御体26の上部は適当の円筒形を呈し而してアダプター15内の中心筒孔内に嵌入して制御体を容器10と同一軸線に保持する。制御体の下端30は機械加工により成るべく鋭い刃端に形成し容器10の内壁に対しその位置を整定して、放出端12の全部に対し等分に液体物質を供給する通路31を形成する。放出端12への液体物質の分布の均一さは、概ね通路31を劃定する二部分の同心状態によつて定まり、而してそのために各部を機械加工によつて適切な同心状態を得るために精密に仕上げることが望ましい。……第1図に示す装置に於て、制御体26が上方に動かされるときは通路31の幅が狭くなり又制御体が下方に動かされるときは通路31の幅が広くなる。」(同号証2頁右三一―3頁左八)

(4) 第5図の装置に関する説明として「放出突縁234及制御端212はその全周に亙り一様の横断寸法を有する環状通路231Bを形成する。この通路を通して供給される液体物質は放出端235の全部に一様に分布され放出突縁の上面に沿い薄いフイルムを形成する。通路231Bを通ずる液体物質の流速度を制御する一装置は通路の幅を変化するもので、端部212に対し制御体226Bを軸方向に動かすことによつて行われる。」(同号証3頁右三四―四一)

(5) 「第6図及第7図は本発明の他の変型態様を示す。図示の装置は長い容器310より成り三角プリズム形を呈している。この容器310は上壁部311と側壁部312及313と三角端壁部314とより成り、これらの壁部は室316を形成するように構成せられこの室内に供給された液体物質を貯えるようにしてある。……側壁312及313は適宜の方法例えば螺子321によつて上壁部311に固定される。側壁部312及313の端部は螺子322によつて結合される。……螺子322によつて結合される壁部312及313にはそれぞれ壁部324及325を設け、これらは端部326及327をそれぞれ有する。これらの端部は鋭角として刃状端とする。……壁部324及325には機械加工を施して円滑な面としその全長に亙り幅の一様な通路328に形成する。この通路は放出端の全長に亙りほぼ等量に室316より該放出端への液体物質の供給を制御する上に寄与する。」(同号証4頁左一七―右一)

(6) 「正確な機械によつて壁部324及325間に一様の間隔を得ることが実際的でない場合は、寸法の等しい溝329を壁324に切る方がよい。これらの溝329は長く伸び放出端326より僅かの所で終り、放出端326の全長に沿い一様に液体材料を拡散せしめるようになつている。溝329が液体材料を放出端に供給するように構成されている場合は壁部324及325は螺子322によつて結合され、溝329によつて空間が形成される以外は両壁部間には空間を存せしめない。……如上の装置310は、噴霧化した液体物質で長い表面を塗装するのに好適である。」(同号証4頁右二―三七)

(7) 「放出端326へ供給する液体物質をよく制御するために制御片331を側壁313に調整自在に附設する。この制御片331に設けた壁部332は端部333で終りこれを成るべく刃端の如く鋭くする。壁部332は壁部324に相対して通路328の延長部を形成する。制御片331には一対の孔334を設けその中に一対の偏心カム335を嵌合して側壁313に対し調整自在に接続する。これらのカム335を一様に動かすときは端部333を一様に端部326に対して上下に移動し且通路328を均等に狭めたり拡げたりする。両カム335間の運動が変化するときは、通路328の幅がその長さに沿い変化することは明らかである。」(同号証4頁右一二―二四)

(8) 「上記の噴射機構はすべて液体物質の流れをフイルムの形状に於て放出端に供することがわかるであろう。このフイルムの形状は放出端の形状によるもので第1、5及8図の装置に於ける如く環状とすることも、第3及4図の装置に於ける如く弓状にすることも、第6図及第7図の装置に於ける如く直線形にすることも、その他所望の形状にすることもできる。」(同号証7頁左七―一四)

(二) 前記各記載からすると、A特許の明細書には、前記(2)の「直接にフイルムを形成」する手段についてはスリツトを用いる方法が、「1個又はそれ以上のオリフイスを設けてこれを通して液体を支持表面に排出しここで拡がつてフイルムを形成」する手段については、溝329がオリフイスに該当するとすれば、添附の第6図及び第7図に示された装置がそれぞれ実施例として掲げられていることが認められる。そして、さらに、前掲乙第一号証によるとA特許の明細書には他の塗料供給装置に関する具体的な記載が存するものとは認められないので、結局、A特許の明細書には、特許請求の範囲にいう「液体被覆材料の流れを実質的に均一の薄く拡がつたフイルムに機械的に変形」する手段として、スリツトを用いる方法とオリフイスを用いる方法だけが具体的に開示されているものと認められる。

(三) ところで、A特許の明細書の発明の詳細なる説明の項には、前記(一)(2)記載のとおり「1個又はそれ以上のオリフイスを設けてこれを通して液体を支持表面に排出しここで拡がつてフイルムを形成する……場合には、排出縁に沿つて被覆材料の分布を一様に推進せしめる為に縁部とオリフイスの間に、縁部が延びる方向と同方向の相対的運動を生ぜしめるのが有利である」との記載があるので、以下、右に「相対的運動」とは何を示唆するものであるか検討する。

(1) 前記(二)(2)及び(8)の記載によると、A特許においては、放射端の端部は如何なる形状でもよく、環状とすることも、弓状とすることも、直線状とすることもでき、しかも放射端の端部に形成されるフイルムの縁部の形状は放射端の形状により規定されるものであるとされていることが認められ、右事実によれば、右放射端の形状によつて規定せられるフイルムの「縁部の延びる方向」とは、必ずしも円周の方向だけに限定されるものではないが円周方向への運動も指称しているものと認められる。

(2) そして、前記(二)(3)ないし(5)の記載によれば、第1図に示す装置では「制御体26を上下に移動させること」、第5図に示す装置では「端部212に対し制御体226Bを軸方向に動かすこと」、第6図及び第7図に示す装置では「端部333を一様に端部326に対して上下に移動すること」により、それぞれスリツトの幅を調整することができることが記載されているわけであるが、右スリツトの幅を調整することができることが「相対的運動」に該当すると解することはできず、したがつて、右各記載が存することをもつて、「相対的運動」の技術的内容について具体的な開示がなされているものと解することもできない。

(3) また、「縁部が延びる方向と同方向の相対的運動を生ぜしめるのが有利である」との記載は、オリフイスを用いた場合についての記載であるのに、第6図及び第7図に示す装置については、右「相対的運動」に関する具体的記載は何もない。

以上の事実からすると、「縁部が延びる方向と同方向の相対的運動を生ぜしめる」とは、オリフイスを通じて支持表面に排出された塗料の分布を一様に端縁部に推進せしめるために支持表面を回転させることが放出端への液体塗料の分布の均一性を保持する上に有利であることを抽象的に示唆するものと解さざるを得ない。

そして、このことは、成立について争いのない甲第六号証ないし第一二号証によつて認められるA特許の出願審査の過程や特許異議手続において表示せられた当業者の認識とも符合するものである。

3 そこで、次に、A特許の明細書において抽象的に示唆する回転運動とは如何なるものを指称するのか検討する。

(一) 前掲甲第一号証、第三号証、乙第一号証及び成立について争いのない丙第一ないし第三号証並びに本件口頭弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

(1) 甲出願は、アメリカ合衆国に出願されていた三件の特許出願に基づき、一九四四年九月二九日、一九四八年三月五日、一九四八年一〇月二九日の優先権(連合国人工業所有権戦後措置令による)を主張して三件の発明をまとめて昭和二六年(一九五一年)六月二七日日本国に出願されたものであること。

(2) 甲出願から、まず乙出願が、次いでA出願が分割出願され、A出願から、まず第一出願が、次いで丙出願が分割出願され、第一出願から第二出願が分割出願され、右各出願は、乙、甲、A、丙、第二、第一の順で出願公告され、次いで、特許第二二七六三四号(甲特許)、特許第二二七八九二号(乙特許)、特許第二五二四五九号(A特許)、特許第二七八〇七九号(丙特許)、特許第三一九一七四号(第一特許)、特許第三一九五四〇号(第二特許)として特許されたこと。

(3) 甲特許の優先権主張日は一九四四年九月二九日、A、第一、丙、第二特許の優先権主張日は一九四八年三月五日、乙特許の優先権主張日は一九四八年一〇月二九日となつており、右事実は、優先権主張のもととなつた発明をそれぞれ異にしていることを意味するものであること。

(4) A特許発明にかかる発明の特許出願の願書に添附した明細書の特許請求の範囲の記載は前記2(一)のとおりであり、第一明細書及び第二明細書の特許請求の範囲の記載は請求の原因2(一)及び3(一)のとおりであること(後者については、当事者間に争いがない。)。

(5) 乙特許にかかる発明の特許出願の願書に添附した明細書の特許請求の範囲の記載は次のとおりであること。

「液体被覆材料の環状フイルムの先縁から静電的に霧化し、フイルム縁と被覆される物品との間に維持される静電界によつて噴霧を形成し、これを液状の中に物品上に静電的に沈着せしめて液体被覆材料で物品を静電的に被覆する方法に於て、液体フイルムは液体被覆材料が制御された速度で供給される廻転霧化頭の同心表面上に形成されることを特徴とする静電的被覆方法。」

(二) 前記(1)ないし(5)の事実からすると、甲特許の出願当初の明細書には「廻転霧化頭」の技術が開示されていたものと推認することができる。

この点に関して、被告扇らは、「甲出願は、乙出願を分割出願するに際し、乙出願と抵触しないよう補正され、次いでA出願を分割出願するに際してA出願と抵触しないよう補正されたから甲特許の対象は乙出願及び乙特許並びにA出願及びA特許の各対象を含まない」とか、「A出願は乙出願を含まないよう補正された甲出願からさらに分割されたものであるから、A出願に基づいて特許されたA特許の対象もまた乙特許の対象の特徴部分(要旨)である『液体被覆材料が制御された速度で供給される回転霧化頭の同心表面上に形成される』方法は含んでいない」旨主張しているが、原出願からある分割出願をなすに際し原出願の特許請求の範囲に記載された発明と分割出願にかかる発明とが同一発明とならないよう適宜の補正をなす場合があることは当然といえるものの、このことと前記(2)の事実をもつてしても、右主張を直ちに首肯することはできず、他に右主張に係る事実を認めるに足る証拠はない。

(三) そこで、甲出願の出願当初の明細書に開示されていたものと推認しうる「廻転霧化頭」の技術内容を検討するために、甲出願から分割出願されて特許された乙特許の明細書に右の点に関して如何なる技術が開示されているのか、以下検討する。

(1) 前掲丙第二号証によると、乙特許の明細書の発明の詳細なる説明の項には次のような記載が存することが認められる。

<1>「本発明に係る方法は液体被覆材料の環状フイルムの先端から静電的に霧化し、フイルム縁と被覆される物品との間に維持される静電界によつて噴霧を形成し、これを液状の中に物品上に静電的に沈着せしめて液体被覆材料で物品を静電的に被覆する方法に於て、液体被覆材料が制御された速度で供給される。回転霧化頭の同心表面上に液体フイルムを形成する事を特徴とする方法である。」(丙第二号証1頁右一四―二一)

<2>「噴射頭を回転することにより、被覆操作中に被覆面に得られる被覆の均一性は著しく増加される。それは被覆材料が環状延長端の周りに一層均様に分布され噴射頭から発出されて一層均様に模様中に微粒子として入るからである。」(同号証3頁左二三―二七)

<3>「回転なしでは被覆材料は重量により噴射頭の下部に流れる傾向がありかかる装置を垂直面の被覆に使用するとしたら、これから出ずる模様は下方半分の面が殆ど全部の被覆を受けるような程度にまで不均斉となるであろう。回転は又かゝる噴射頭が静止して使用されるときに生ずる沈積模様の自然的耳朶を無くすという長所をもつ。」(同号証3頁左二七―三五)

<4>「回転は又噴射頭の構造の条件を緩和して従つて低廉に且つ迅速に製造することを可能とする。延長端に被覆材料を均様に分布するには、均一に注意深く測定された細隙116が必要であると諒解されている。実際にこの細隙は3ミル程度のものであるから、環状の均一性を得これを保持することは困難な仕事で特に直径の大きい噴射頭の場合にそうである。一寸均一性が失われても噴射頭が静止の場合には噴射頭の模様に物質の集中又は欠乏となつてあらわれる。噴射頭の回転はかゝる不均一性をなくすから噴射頭の構造に於て大なる公差を可能とする。同じ理由で噴射頭の回転は細隙の一小部分が被覆材料中の異物で塞がれるようなことがあつても噴射頭から常に均一な模様を得させる。静止の噴射頭では閉塞が起れば直ちに清掃を必要とする。」(同号証3頁右一七―三二)

<5>「本発明実施のため使用し得る他の変形が第3図に示されている。……而して管230の下端の座212は針211と協働して被覆材料が溝214へ流れそれから一個又はそれ以上の開口215に行くのを調節するようになつている。被覆材料は噴射頭体200の回転されるとき、その内壁216に拡散される。……流体の開口215の大きさは第2図に示す噴射頭の制限された孔口116より大きくすることができるから被覆材料中の異物で塞がれることも少い。」(同号証3頁右三三―4頁左一三)

<6>「第3図に示す噴射頭では被覆材料が開口215から端218に流れる内面は滑らかな面であるとして図示したが、頂きから底へその深さを変える一連の溝をこの面上に渦巻状に設けると或る利益の得られることがわかつた。第4図に示すこの種の噴射頭は開口215の高さに円周状の溝310をもち、この溝から渦巻状の溝311が薄い端318へその深さを変えつつ延び端318で消えている。溝310中の被覆材料は噴射頭の回転により渦巻状の溝中に外方へそれから下方へ送られ、かくして噴霧化のため端318全体に分布される。」(同号証4頁左一四―二四)

(2) また、同号証によると、乙特許の明細書の第1図及び第2図には、スリツトを用いた噴射頭を回転させる実施例が、第3図及び第4図には開口215(第4図においては直接図示されてはいないが)を用いた噴射頭を回転させる実施例が図示され、かつ第4図の実施例に示す装置を用いてエナメルを塗布するのに使用して成功した旨、その際の噴射頭の回転速度は毎分約一五〇回転であつた旨記載されていることが認められる。

(3) (1)及び(2)の事実によると、乙特許の明細書において開示された噴射頭の回転という技術思想は、塗料供給装置としての細隙すなわちスリツトの存在を前提として、その正確な同心的な位置決めの困難性を解消することを主な目的とし、併せて噴射頭を回転させることにより被覆材料が環状延長端の周りに一層均様に分布されることになり被覆の均一性を著しく増加させ、垂直面の被覆に使用する場合に生ずる沈積模様の自然的耳朶を無くし、噴射頭の構造の条件を緩和させて低廉かつ迅速に噴射頭を製造することが可能となり、かつスリツトの一部分が被覆材料中の異物で塞がれた場合にも均一な模様を得させるという効果を生じさせるものであつて、そこで要求される噴射頭の回転速度も毎分一五〇回程度と認められるのである。また、オリフイスを用いた場合にも回転の目的及び機能は右と同様のものとされていることが認められる。

(四) 以上要するに、甲特許の出願当初の明細書において開示されていたものと推認しうる噴射頭の回転という技術思想は、スリツトやオリフイスという従来の塗料供給装置に代わる新たな塗料供給装置として噴射頭の回転を用いるというものではなく、従来の塗料供給装置の欠点を補い、これを改良するための技術として、従来の装置に噴射頭の回転という手段を付加したものと認められるのである。

よつて、甲特許出願からA特許へ噴射頭の回転に関する技術思想がそのまま受け継がれたとしても、A特許の明細書において開示された噴射頭の回転は前記のように限定されたものと解すべきである(なお、乙特許の明細書の第3図及び第4図に示された実施例において、開口215は、その構造、機能からみて「オリフイス」といえるわけであるが、右開口215を「オリフイス」と呼称すると、右実施例は、A特許の明細書に記載されている「或は1個又はそれ以上のオリフイスを設けてこれを通じて液体を支持表面に排出しこゝで拡がつてフイルムを形成する様にしてもよい。後者の場合には、排出縁に沿つて被覆材料の分布を一様に推進せしめる為に縁部とオリフイスの間に、縁部が延びる方向と同方向の相対的運動を生ぜしめるのが有利である。」との文言をそのままの形で具備した実施例ということになる。)。以上によれば、第一明細書及び第二明細書には、塗料供給装置に関して、噴射頭(噴霧頭、霧化頭と同じ意義である)の回転を間接的に示唆すると解しうる記載は存するものの、右示唆する噴射頭の回転という技術思想は、A特許の明細書において開示された限度に止まるものと解すべきである。

五 被告第一ないし第四装置を表示するものであることについて当事者間に争いのない別紙第一ないし第四目録の記載に本件口頭弁論の全趣旨を総合すると、被告各装置においては、液体塗料は霧化装置の高速度回転に基く遠心力の作用により第一筒体F(被告第一、第三装置)あるいは筒体F(被告第二、第四装置)の内周壁面に沿つて薄く延びたフイルムを形成しながら、第一筒体Fあるいは筒体Fの先端部分の前端縁に向つて移動し、そこから連続的に霧化放出されることになつており、霧化装置の高速回転が被告各装置の塗料供給装置としての役割を果たしていることが認められる。

六 A特許の明細書において開示された噴射頭の回転と被告第一ないし第四装置の霧化頭の回転の技術的な意味を対比するに、前者が前記四3(四)で認定したとおり静電塗装装置における塗料供給装置としてのスリツトやオリフイスが備えられていることを前提として、これを補い、改良する手段として噴霧頭の回転という技術を用いているのに対し、後者は、前記五で認定したとおり静電塗装装置における塗料供給装置そのものとして、すなわち液体塗料の流れをフイルムにかえて放出縁へ推し進める手段として霧化頭の回転という技術を用いているのであつて、両者は塗料供給装置に関する技術として別個のものといわざるをえない。

結局、被告第一ないし第四装置は、いずれも第一発明の構成要件(ろ)及び第二発明の構成要件(D)を充足せず、その余の構成要件について検討、対比するまでもなく、いずれも第一発明及び第二発明の各技術的範囲に属するものとは認められない。

なお、原告は、被告第一ないし第四装置は第一発明及び第二発明を利用するものである旨主張しているが、前記認定のとおり、被告第一ないし第四装置と第一発明及び第二発明とでは塗料供給装置に関する技術としては別個のものである以上右主張が理由のないことは明らかである。

七 よつて、被告各装置が第一発明及び第二発明の各技術的範囲に属することを前提とする原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないのでこれを棄却することとする。

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